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疲れない山の歩き方   
2012.4.14
山口県山岳連盟 坂口仁治
体力がないと山登りは無理?
 登山をするにあたって、体力があるに越したことはありません。しかし、ベテランとビギナーでは同じ距離を同じ時間歩いても、疲労感はかなり違ってきます。
 ちょっとした歩き方のコツを知ることで、山歩きの世界がもっと広がります。まず、余分な力を抜く事を考えて見ましょう。
歩き方にもコツがある
(1)視線の位置は
 
 普通は5~6メートル先を見て歩くといいでしょう。でもホームポジションは足元から1歩先くらいと考えてください。
 また、状況に応じ足場の安全を確認しながら歩きましょう。足元ばかりに気を取られると、岩角や木の枝に頭をぶつける事がありますので、周りに危険がないかもよく見ながら歩いてください。
 景色や植物、動物の観察がしたい時にはちょっと立ち止まった方が賢明です。
(2)歩きの姿勢は
 
●腰の位置はほぼ体の中心と考えながら、前方に踏み出し着地した足にゆっくりと体重を移して行くと、腰は自然に前方に移動します。
 それにつれて、後ろ足の膝を曲げながら前方に出し、着地した足に同じくゆっくりと体重を移して行きます。後ろ足で地面を蹴らない歩き方です。体重移動だけで、余分な力を使わなくてもいいのです。
 
●靴は傾斜に合わせ、足裏全体を同時に着地させます。ゆっくりと静かに、靴底全体を地面に置くようにし、置いたその足に、ゆっくり真下に体重をかける要領です。
 その足を登りではかかとから、下りではつま先から踏み込むようにすると足裏全体でフラットに足を運ぶことができます。これは、登りや下りで靴底の摩擦力を最大限に利用して滑りにくくすると共に、足の筋力への負担を防ぐ、足にやさしい歩き方にもつながります。
 
●上体は少し起こして背筋を伸ばし、背中から肩、頭部にかけてのラインがほぼ自然な感じで、斜面に対して鉛直になるのが良いでしょう。
 正しい姿勢は疲労を軽減できるとともに、バランスも良くなります。
 
●下りではいわゆるヘッピリ腰にならないように気をつけましょう。こうなると、足に負担がかかるばかりでなく、ヒザが後ろに逃げた分、上体がかぶり気味になって、足元がよく見えなくなります。
 また、前足のヒザが突っ張った状態になり、体がスムーズに前へ出なくなり、かえって滑りやすくなります。
(3)歩幅
 
●歩幅はなるべく小さくすることが、スリップしにくくて、疲れない歩き方の基本です。
 前足の踵と後ろ足のつま先の間隔を1/2足から1足分くらいが目安です。
 傾斜がきつくなるに従って歩幅を狭めます。大股歩きは、滑りやすくなり、早くバテてしまうことに繋がります。
 
●一歩の高低差もなるべく小さくなるよう、丁寧に足場を拾って下さい。
 段差を大きく踏み込むと大きな脚筋力が必要となります。これを繰り返す内に足への疲労が溜まってきます。
 ちょっとした段差や小さな岩、木の根などがある場所では、またいだり、飛び降りたりせず、面倒でも小さな歩幅を保って回り込みましょう。
 
●登りでは、逆ハの字で靴先を開くようにすることで、足首や膝が曲げやすくなり、関節の負担が軽減されます。
 下りは、内股ではなく、まっすぐに足を出すと滑りにくく、スムーズに足が出ます。
 
●石や木などの大きな段差を降りるときは、いったんしゃがみ込んだ状態で(お尻を地面に着けない)片足を下に伸ばして着地させ、体重移動を行うと滑る心配がない上、ヒザへの負担が軽減されます。
(4)歩く速度とリズム
 
●出発前にストレッチ(伸展)をしておくと筋腱の障害を防ぐことが出来ます。また、登山終了後に行うと、運動により硬くなった筋肉をストレッチさせることにより、筋肉痛の緩和にも繋がります。
 ポイントは反動をつけずにユックリと呼吸を止めず、痛くならない手前の気持ちの良いところまで伸ばし、10~20秒間くらい伸ばしたままを保ってください。
 
●歩き出しはウオーミングアップと考え、意識してゆっくりと登り始め、ペースをつかみましょう。
 ウオーミングアップは筋、内臓の働きを活発にし、酸素摂取量や血行促進を促します。
 
●ペースはあまり遅いと逆に疲れます。呼吸が乱れない程度が、あなたの山での歩くスピードです。
 リズムは一定にしましょう。リズムを乱すと非常に疲れます。
 一定のリズムで運動すると、身体のシステムが「これくらいの運動なら、このくらいのエネルギーで充分だな」と省エネ化を図るので疲れにくいというわけです。登りでも下りでも一定のリズムで。
 
 目標脈拍数=(220-年齢)×0.75 程度と考えると良いでしょう。
 時々脈拍を測って適度な運動量を確認してみてください。
 
●登りの傾斜が増してきたら、歩幅を小さくしてリズムは変えないようにしましょう。
 歩く速度は歩幅で調整します。リズムは一定にして、平坦では歩幅をやや広く、傾斜が増すにつれて狭くしてゆき、きつい坂を登る時や下る時には、前足の踵と後ろ足のつま先の間隔がない位の歩幅にします。
 
●目的地に着く前にはユックリとペースを落とし、ク-ルダウンを心がけてください。
 これにより、疲労物質の乳酸の分解を促し、疲労回復と筋肉痛予防にも役立ちます。
■下りはヒザがポイント
●不安定な岩場などの歩行も、基本はこれまで話してきた登りや下りの歩き方とまったく同じです。
 それをより確実に、丁寧に行うことです。とくに姿勢を正し歩幅を狭くすること、そして足の裏全体で静かに真下へ体重をかけることがポイントです。
 
●岩稜などでの歩行は足首をよく曲げ、靴底をフラットに置きフリクション(摩擦力)を利かせましょう。
 
●ガレ場・ザレ場では、下る時には真上から靴底全体を斜面にフラットに置いて、つま先に体重をかけるようにします。
 かかとに体重をかけるとスリップしやすいので要注意!
■ガレ場やツルツル道の歩き方
●不安定な岩場などの歩行も、基本はこれまで話してきた登りや下りの歩き方とまったく同じです。
 それをより確実に、丁寧に行うことです。
 とくに姿勢を正し歩幅を狭くすること、そして足の裏全体で静かに真下へ体重をかけることがポイントです。
 
●岩稜などでの歩行は足首をよく曲げ、靴底をフラットに置きフリクション(摩擦力)を利かせましょう。
 
●ガレ場・ザレ場では、下る時には真上から靴底全体を斜面にフラットに置いて、つま先に体重をかけるようにします。
 かかとに体重をかけるとスリップしやすいので要注意!
■岩場やクサリ場の安全な通過方法
(1) 岩場で安定した姿勢とは
 
 体重がかかる足の真上に体があり、上体、腰、足がほぼ一直線で結ばれた状態が理想です。そのような姿勢を保つポイントをいくつか述べてみます。
 
①下腹部を岩につけるようなイメージで腰が引けるのを防ぎ、上体を岩から離す。そのとき、手はちぢこまらせずに自然に構えてください。
 これができれば足元も上方の視界も良好になります。
 
②基本は足で立つこと、両手はあくまでバランスの補助と考えてください。使ってもワンポイントだけ。手に頼ろうとすると姿勢が悪くなります。
 靴が3分の1以下しかのらない足場では、足を逆八の字に開いて足の親指の内側で立つと安定します。
 
③クサリ場の場合、足でしっかりと立ち、クサリに全体重を預けず、補助として持った方が安定します。
 なお、このとき滑り止めのない繊維系の軍手などは滑りやすいので外した方が賢明です。
 
④岩場での体重移動は体重をかけようとする足の真上に体を振り込んでから、真下に向け静かに体重をかけ、ジワット立ち上がって下さい。
 
⑤ハンドホールド(手がかり)はこれからの体の動きを考え、右足に体重をかけるなら右側、左足なら左側に求めると安定します。
 その際、ハンドホールドの高さは目の位置か少し上ぐらいにしてください。あまり高いと体が伸びきって、バランスを崩すことになります。
 
⑥岩場では3点支持を守りましょう。3点支持とは、両手、両足の4点のうち、3点は必ずホールドを保持していることです。
 一度に動かすのは片手か片足のみ。これはスリップしても後の2点でしっかり保持できるようにするためです。
(2) 岩場で注意したいこと

①浮き石などを落として、落石を起こさないように十分気をつけてください。
 万が一、落石を起こした場合や上から落ちてきた時は「ラック!(落)」と大きな声で叫び、周りの人に注意を喚起してください。
 
②登りより、下りの方がケガなどの事故がおきやすいので、より慎重に、ていねいに歩きましょう。
 段差を飛び降りるのは禁物です。
 
③はしごやロープを使うときは、破損などが無いか確かめ、一歩ずつ足元を確認しながら昇降しましょう。
 はしごは靴の土踏まず部分をステップに水平に置くと安定します。手はステップを持って昇降してください。
 数珠繋ぎは事故のもと、間隔を空けるか一人ずつ使用しましょう。
■休憩のとり方もバテに関係がある
●疲労の除去と軽減、体力回復のため休憩は適度に取ってください。
 
●休憩時間をどんなタイミングで取るか、よく考えて行動しましょう。
 休憩時間を取るタイミングも歩くリズムと同じように、一定の間隔で取るようにしましょう。
 身体のシステムに「このくらいの時間を動けば休みが来る」という事を覚えさせると、使うエネルギーの節約にもなります。
 
●山の衣類は重ね着が基本です。
 歩き始めて暫くすると体が温まってきますので、最初の10~15分くらいで一度小休止を入れ、着ていた衣類の調整を行うと良いでしょう。
 
●普通40~50分歩いたら5~10分休むのが良いとされています。
 長時間休むと体が冷え、筋肉も硬くなるので、休憩の際はウインドブレーカー等を着て保温に努めましょう。
 休憩時間は長くても10分以内にしておくのが目安です。
 
●行動時間の50分がきつい人は、30分歩いて5分間休みでもいいでしょう。これをひとつのリズムとして歩けば、50分歩いて10分休む場合と、ほとんど同じになります。
 
●休憩の際に軽いストレッチなどをすると、硬くなった筋肉をほぐし、積極的な休憩になります。
 
●3時間程度の行動をしたら大休止を取りましょう。大休止は20分~30分取ります。
 この間にお湯を沸かしてコーヒー等を飲む余裕があるとリフレッシュ出来ます。
 
●休憩場所は落石の危険や風雨、直射日光等の影響を受けない場所を選びましょう。
■水の飲み方にも関係がある
●水を飲んだらバテルと言われたのは過去の話で、運動をすると体温が上がります。その上昇した体温を下げる働きを担っているのが汗です。汗をかき、体内の水分を肌表面から蒸発させることによって、体温を調節しているのです。
 汗で失われた水分を適度に補充しておくことが大切です。
 ただし、ガブ飲みしたら消化器系に負担がかかるばかりで吸収効率が悪くなります。
 
●水分と行動食は意識的にとること。
 のどの渇きを感じたときは、体重が2%減少したときだという調査結果も報告されています。つまり「のどが渇いた」と感じたときには既に、運動能力が低下してしまっています。喉が渇いてからでは遅いので早めの補給が肝心です。
 欲しくなくても休憩ごとに100~200cc程度の水分をユックリ取るのが良いとされています。
 
 脱水量(ミリリットル)=体重(kg)×歩いた時間×5を目安に。
 脱水量の7割は摂取するようにこころがけてください。
 
●水分として取るのは、汗として失われるミネラル分や、塩分を摂取しやすく作られたスポーツドリンクなどがお勧めです。
 理想的な飲料の条件としては、水分補給で大事なのは発汗で失った体内の水分を補給することです。
 体内の水分(体液)には、イオン(電解質)が含まれています。そのため「塩分」の摂取が大切です。具体的な水分の組成としては、ナトリウムが100ml中に40〜80mg(0.1〜0.2%の塩分に相当)と糖質を含んだものが効果的と言われています。
 特に1時間以上運動を続ける場合には、エネルギーの補給として4〜8%程度の糖質を含んだものが有効。また、糖質を含んだ水分は腸管内での吸収スピードが速く、保水率も高まります。
 但し、糖質濃度が8%以上になると胃から腸への移送速度が遅延するので注意が必要。
 また、気温を考慮して冷やした飲料を準備することや、胃の滞留時間を考慮し、一度に大量に飲むのではなく、こまめに補給することなども重要です。
■バテ無いために何を食べたらいいの
●カロリーの高い炭水化物が有効です。
 行動食の例としては、一口大のアンパン、チョコレート、チーズ、クッキー、キャンデーなど一休みごとに食べられるものが良いでしょう。
 
 エネルギー消費量(kcal)=体重(kg)×歩行時間×5を目安に。
 消費量の7割は摂取するようにこころがけてください。
■まとめ
 歩くリズムと休憩時間の取り方、水分やエネルギー源の取り方により、疲れに大きな差が出てきます。
 決して無理をせず、自分の体力に合った「山の歩き方」をしてください。
 自分に合った「山の歩き方」をすると、早く目的地に着くばかりでなく、歩いている最中に植物や景色を見る余裕も生まれます。
 体力にも余裕が出来るので、足元もしっかりし、不用意な転倒などの事故も少なくなるでしょう。
 「一定のペースで、なるべく長く歩き続け、休憩や水・食料は定期的に取る」これが上手な休憩時間の取り方と、バテない秘訣になると思います。
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