平成29年度中高年安全登山指導者講習会(西部地区)が10月7日(土)~9日(祝月)の日程で、山口県山口市の県の研修施設「山口県セミナーパーク」大研修室をベースとし、8日の実技講習はセミナーパークに隣接する「陶ヶ岳連山」にて開催されました。 |
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受講者は奈良1、兵庫1、鳥取2、島根3、岡山1、広島4、山口10、徳島4、香川5、福岡2、佐賀2、長崎3、熊本1、大分3、宮崎1、鹿児島1、沖縄2の17県から46名(男33名、女13名)が参加し、主催者、講師、スタッフを合わせると総勢76名でした。 |
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1日目は、受付、開講式のあと、国立登山研修所講師で日本登山医学会の水腰英四朗医師により、講義1「ファーストエイド~初期対応と緊急性の見極め」をテーマに講義を戴いた。内容は山岳遭難者が年々増加しているが、この中にはファーストエイドが適切であったら、助かった命があったかも知れない。事故が発生したときに仲間を助けられるのは登山者自身です。
ファーストエイドは大まかに予防→救急措置→救助要請の3ステップに大別され、特に救急の観点から患者の状態を悪化させないためには、できるだけ早く(目標2分以内)確実に「初期評価・蘇生・ゴール設定」までを行えることが必要で、救急手順をキーワード化し覚えやすい言葉で纏めたのが3S ABCDEで、この手順について分かりやすく説明を戴いた。
また、緊急性が高いと判断した場合は迷わず救助要請を行い、通報要領は「山岳遭難です」と明確に伝えることが重要と説明されました。 |
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次は2日目の技術講習のために「単位技術」として実習を行った。内容は、傷病者対応の3S ABCDE・低体温症患者への加温方法・傷の手当・ツエルト設営・ロープワ-ク・搬送方法等について、「パワーポイント」で説明しながら指導員や経験のある参加者間で教え合いながら全員が習得できるようにしました。 |
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2日目の実技場所は裏山の陶ヶ岳連山。施設からそのまま歩いて登られるので移動時間ロスが少なく研修や討議に充てる時間を多く確保できた。また、研修効率を上げるため受講者を2隊に分け、更に隊を2班に分けて交差縦走を行いました。
縦走路途中に課題設定ポイントを4ヶ所設置し、P1とP4では傷病演技者と装備をもって、班単位で内容を検討しながら課題の救助対応を勉強して頂きました。
また、各ポイントでは終了後、受講者間で反省と評価を行い指導員及び講師からアドバイスを戴きました。 |
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P1ポイントでは「軽度の低体温症」と「中度の低体温症」の患者救助の課題を、初日の「単位技術」講習を思い出しながら班ごと交互に「低体温症演技患者」に対し、3S
ABCDEから入る救助対応を求め、中程度で体温が下がっている患者に対しては、患者を移動することや、体皮膚面の冷えた血流でアフタードロップを起こさないことに注意し、体の体幹部に対しては加温の必要性、ヘリ救助まで傷病人の対処方法等を体験した。 |
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P2ポイントにおいては、約600m離れた場所で主催者が用意した器具(ホイッスル・ヘッドランプ・蛍光シート)にて緊急信号を発信し、山頂側で受講者に見える程度、聞こえる程度を評価してもらい表に纏めた。
まとめでは、太陽の位置によって判別しにくいこと、色彩も深緑と紅葉の時期などで違うこと、ホイッスルの音には大差があることも判断できた。 |
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P3ポイントでは、ビバークに関する講習を行った。適地を探してツエルトビバークをしなさいという課題。
意見交換の際、北村先生から自分は手早く行う為、ツエルト側の細引きは最初から取り付けていること、ザックの雨蓋に入れ寒冷期の休憩時に防寒に使用しているというコメントがあった。また、受講者に聞くとビバーク用のレスキューシートは持っていても使用したことが無い人が大多数であった。 |
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P4ポイントでは、岩場で3m程度の高さから転落し、腕の擦過傷、足首の骨折、全身打撲という想定で救出方法の課題を行った。
3S ABCDEでの状況確認、擦過傷の包帯処置、足首骨折箇所のサムスプリント固定、ヘリの要請、転落岩場からのテープスリングによる背負い搬送救出、ムンターヒッチによる確保、更にヘリ飛来地点までのツエルト搬送、ヘリの誘導までの一連の流れを行った。リーダー指揮下のもと分担、協力しあっての作業の大切さを学んだ。 |
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講義2は、岳連会員で山口県総合医療センター整形外科医の守屋淳詞医師に「登山者の膝痛対策」と題して、膝痛の原因と対応について講義を戴いた。受講者に「膝痛」を経験した人が多く、質疑応答では、膝痛を持つ参加者からの経験談、対応(手術・ストック・サポートタイツ等)について意見が出、必要に応じ守屋医師のコメントを戴いた。サポートタイツについては効果を実感する旨の話が多かった。
また、サプリ使用の効用については有効性が確認できないものもあるし、肝障害を起こすサプリもあるので、注意が必要とのコメントも戴きました。 |
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3日目は「中高年登山の現状と問題点」と題して、登山研修所専門調査委員長の北村憲彦先生の講義。遭難及び遭難者は相変わらず右肩上がりの傾向を示している。定年前後に登山を始める方が多く、大きな山への登山を安易な遊びと勘違いしている傾向があり、事故の比率を押し上げていると思われる。事故の内容から体力づくり、登山知識やリスク管理の習得が必要であり、特に単独登山者の死亡・行方不明の比率が高いことから、山岳会や登山グループへの加入等も必要と講義されました。 |
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続いての研究協議は「低体温症」「転倒・転落・滑落」の2つのテーマについて6グループに分かれての討議でした。各人が思いつく状況(どこで、いつ、どんな状況で・なぜ・原因等)をキーワードとして、皆でメモ紙に書き連ね討議の上模造紙に整理し、重要ポイントを絞り込む方式がとられ、最後にグループ代表が発表し、受講者全員で情報の共有化ができました。 |
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三日間に渡る講習の期間中は天候にも恵まれ、予定通りの内容が実施でき、また、受講者の積極的な質疑や行動により、講義内容を取り込んだ実技も楽しく運営することができました。事故もなく安全に講習会が終了できたのは偏に受講者や関係各位の協力の賜物と厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。 |
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